先日、水産エコラベルの講演会の内容について紹介しました。
SNSやメールなどでコメントくださった方、ありがとうございます。
僕もまとめ作業を行いながら、勉強になりました。
さて、今日はその講演会を受けて、自分の経験を織り交ぜつつ、感想を述べたいと思います。
「持続可能な漁業」を実現したい現場の人間という立場で、言いたいことは以下3点です。
・現在のMEL認証は取得のメリットが見出せない。オリンピックのためだけに取得するならグリーンウォッシング。
・GSSIの合格を得た新規格MEL認証は海外輸出などの面で取得のメリットを得られそう。
・エコラベルの普及広報活動をセットで行っていく必要がある。
現在のMEL認証をとったから魚価が上がるというものでもありませんし、認証を維持していくメリットも限定的です。
「営業や販路拡大につながった」というメリットも講師の方から紹介いただきました。
しかし、我々のような小規模の漁業の場合は営業など全くもしくはほとんどしていないので、認証云々より、営業努力をすることで販路は拡大できるのが現状です。
(だから僕レベルの漁師でも営業をすることでお客様を見つけられるという面もあるのでしょうが。。。。)
また、現在のMELでは持続的とは到底言えない漁業に対しても認証を与えてしまっています。
「一般消費者が、エコラベルのついた商品を選択することで、環境保全を間接的に応援できる。」というのがエコラベルの最も重要な仕組みです。
現在のMEL認証は消費者に対しては持続性のある商品という印象を与えつつ、購入(応援)が環境保全に繋がらないという意味でグリーンウォッシングになってしまうことが危惧されます。
2020年のオリンピックの時には世界の目が日本に向けられます。
そこで提供される水産物が持続可能なものでないこと、そのような魚にも日本のエコラベル認証がつけられているというようなニュアンスが広まると負のレガシーになってしまいます。
オリンピック需要のために、とにかく今のハードルの低いMELを取得しておこうというのは、負のレガシーを残し、長期的に見れば「本当のエコラベル」の日本での普及を遅らせてしまうのではないかと危惧します。
一方で、MELも、漁業団体の要請を受ける形ではありますが、世界基準の認証にしていこうと努力していることがわかりました。
具体的には新規格のMELではFAOのガイドラインに準拠しているかを審査する第三者機関であるGSSIという組織のベンチマーキングテストの合格を目指すようです。
ここをパスできれば、これまでの情報公開のされない不透明な審査プロセスが一気に透明性を持ってくると思います。
さらにGSSIのテストに合格した後、欧米型の資源管理思想に偏っているGSSIに対して、FAOのガイドラインに準拠する日本の漁業に適した資源管理のあり方を提案していくとのことでした。
確かに欧米と日本では漁業の発展の仕方が異なることはあるでしょうから、どのような提案があるのかなど、非常に興味があります。
比較的安価に、世界で通用する認証が、しかも日本語をベースとして取得できるのであれば、日本の漁業現場における普及は最も早くなるでしょう。
ただ、これまでより新規格でコストがかかることは明らかなので、漁業者負担がどの程度増加するのか、その点も問題にはなってきそうです。
前の記事でも触れたのですが、MSCがデファクトスタンダードとなっているのは、「生産者」、「企業」、「消費者」それぞれにエコラベル導入のインセンティブがうまく働いていることと、MSCの審査プロセスに透明性があり、信頼できるところにあると思います。
MELも審査プロセスの透明性を確保するために努力していることが分かったのですが、サプライチェーンのそれぞれでエコラベル導入を進めていく動機付けをうまく引き出していけるかも大事です。
ここは行政と民間がうまく連携していく必要があると思います。
僕が直販等の仕事をしている時にエコラベルの必要性を感じたことが2回あります。
一度は、対馬でたくさん獲れるある魚種について、国内ではあまり単価が良くないので海外輸出を考えて関係者にコンタクトした時です。
海外市場に持っていけば倍以上の単価になりそうで、輸送経費をカバーして採算ベースに合わせるのにどの程度の量を出せれば良いかの検討に入ろうとしていました。
しかし、海外のバイヤーは当然エコラベル認証の提示を求めてきて、その時に必要な認証は当然のようにMELではなくMSCとのことでした。
MSC認証の取得にはかなりの費用がかかりますので、その資源を共有するいくつかの経営体で連携してとることを今後の目標として、一旦話が流れている状況です。
もう一つは、現在も鮮魚をお送りしている飲食店の料理人の方々と意見交換した時のことです。
ミシュランやラ・リストなどの格付け機関でも、調達する食材の持続性も審査に影響してくるようで、料理人の方も「持続可能な水産業の実現」という弊社の理念にとても共感してくれました。
しかし、我々の提供する海産物が持続性のあるものであるという証明はありません。
飲食店さんや個人のお客さんの応援に応えられるようにエコラベルを取得したいという気持ちが強くなりました。
僕は生産現場にいながら、持続可能な水産業に少しでも近づけていけたらと思って活動していますが、料理人という立場で食材の持続性を考えた「食の未来のためのフィールドノート」という本があります。
上下巻あり、下巻で水産物の話が詳しく出てきます。
日本にいると考える機会の少ない食材の持続性ですが、ミシュラン三ツ星のシェフ、ダン・バーバーが「どうやったら魚をメニューに載せ続けることができるか」 を真剣に考え抜いています。
ぜひ読んでみてください。
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