先日、「水産資源の適切な管理と水産エコラベル」の講演会に出席してきました。
エコラベルというのは、地球環境の保全に役立つことが客観的な基準から評価されたものであることを示すマークの総称です。
水産資源では、国際組織であるMSC(Marine Stewardship Council)や日本独自のMELジャパン(マリン・エコラベル・ジャパン)の2つの認証があります。
MSCの認証を得られた商品に貼れるシール
MSCの認証を得られた商品に貼れるシール
その業界のことに詳しくない一般消費者の方々が、エコラベルのついた商品を選択することで、環境保全を間接的に応援できる。
それがエコラベルの仕組みです。
それぞれに対する私の印象です。
MSC
・欧米ではディファクトスタンダード(事実上の標準)。
「エコラベルのついた商品を選択することでより環境に配慮した社会を実現したいと思う消費者」
「消費者・環境団体の要請や、CSRの一環としてエコラベル認証を受けた商品を取り扱いたいという企業」
「そのような市場の要請を受け、また持続可能な水産業にすべくエコラベルを取得したい生産者」
という感じで、市場全体でエコラベルに対するニーズがあって、厳しく透明性の高い審査基準を持つMSCが評価され、標準となっている。
・日本でもイオン系列が取り扱い始めるなど注目しているが、消費者の認知度が低いので普及には時間がかかるのではないか。
・取得を目指す漁業現場としては、認証取得にかかるコストが千万円規模なので小規模の漁業ではそこがネック。幾つかの漁業団体での取得や、どこか(国とか環境NGOとか)が資金援助してくれるなどがあればチャレンジしてみる価値はありそう。(自力でMSC認証を取得している方々から反発はあるかもしれないが。。。)
MELジャパン
・市場全体であまり認知されていない。
・「公益社団法人 日本水産資源保護協会」という水産庁の外郭団体が審査を行っているので、水産庁の意向に影響される可能性がある。ゆえに、評価基準や審査が不透明、もしくは甘い。
特に、2020年の東京オリンピック、パラリンピックの際、関連施設で提供される水産物は持続可能なものであることが求められ、その基準としてMELジャパン認証が目安になった模様(日本がごり押しした??)。
日本産の海産物を多く取り扱いたい日本としては、(持続可能な漁業かどうかという本来の目的とは離れて)MELジャパン認証の基準を甘くして、より多くの漁業で認証を取得できるようにしたいというインセンティブが働いてしまう。
実際に、絶滅危惧種に指定されているタイヘイヨウクロマグロの産卵群を巻き網で漁獲する漁業や、低水準かつ減少中のキンメダイ漁についても認証を与えていることをみると、MELジャパン認証が「持続可能な魚とそうでない魚を区別するラベル」として機能しているようには思えない。
・もし透明性が確保できて、持続可能な水産業につながるのであれば、認証審査費用が安い(初回はトータルで数十〜数百万、年次審査は初回審査の5〜6割)ので、例えば「いなサバ」漁業などで取得を検討してもいいかなと思う。
という感じで、漁業者という立場でざっくりというと、
「MSCは取得後のメリットが高そうだし、取りたいけど費用がなー。。。。」
「MELジャパンは本気出せば取得できそうだけど、取得のメリットあるんかなー。。。。」
というのが講演会前の僕の印象でした。
今回の講演は上述した「日本水産資源保護協会」というMELジャパン認証事業の審査業務を行っている機関の方が、対馬の漁業・水産関係事業者に対して行うものでした。
なので、MELジャパンの取得メリットなどをしっかりと伺えたらと思い、参加いたしました。
配布された資料に沿って、
・事前準備
・審査
・認証の維持
について説明がありました。
MELジャパンの説明だけかと思っていましたが、MSCとの比較も交えながら行ってくれました。
(「MSCの詳しい部分はわからないのでMELだけになりますが。。。」という前置きがある部分もありましたが)
基本的に資料のテキストを読んで、適宜補足という感じだったので、詳細は割愛します。
講演会の時間が1時間半で、講演自体が1時間だったため、質疑応答は30分でした。
3名が質問を行いました。
質問内容に対して、かなり細かな説明も含めて回答されたので最後はタイムリミットとなりました。
3名の質問者のうち真ん中は僕が行いました。
以下Q&A方式で。(Qに対してかなり細かく答えてくれているので、回答については見出しをつけました)
Q1. メリットとデメリット の兼ね合いで(漁業者は)審査をするかどうかを決めると思うが、事前審査をすることで初めてそれがわかるのか。
A.
現在の規格の、消費者やバイヤーの評価
MSCはよくわからないが、MELでは、現在の認証と、新基準の認証の2つがある。
前者は2007年に始まって以降今まで続けている認証で30漁業弱の人が取得している。
MELをとったからといってバイヤーが高く買うわけではない。消費者の認知も進んでいない。
そのような状況なので、MELが付いた商品だからといって購買の動機付けに結びついていない。
5〜6年前に大日本水産会が行った調査によるとMELの認知度が2%、現在は少し上がっているかもしれない。
MEL認証がついていない商品に対してついている商品が5%ぐらいの値段上昇なら購入してもいいという消費者アンケート結果はあった。
ただし、アンケートの際には被験者が理想的なことをいう傾向にあるので、本当に購買につながるかは疑問という考察であった。
バイヤーの話ではMEL認証がついているかどうかではなく、素直に品物のいい悪いで値決めをしているという話。
MEL認証取得者が認証を維持している理由
このようにMEL認証を取得するメリットがないのに、現在も30漁業の人たちがなぜ、MEL認証を維持し続けているのか。
・自分たちの漁業について自信を持って取り組んでいるということをアピールし続けたいから
・「持続可能な漁業」をしているということで、これまで敷居をまたぐことのできなかったお店に対して営業をかけた時に話を聞いてくれるようになったという例がある。
・MEL認証のついた商品を扱っているスーパーから「MEL認証のついた他の商品はないの?」との問い合わせがあり、他の商品を紹介するなど、MEL認証つながりで新しい販路が見つかったケースもある。
・シンガポールのホテルと従来から取引していた漁業について、ホテル側から「これからも商品を使い続けたいが、環境団体から抗議があるのでそれに対して答弁できるような資料などを作って欲しい」との問い合わせがあり、MEL認証の英訳版をホテルに提示したところ、取引を継続できた。
新しい規格を準備中
もう一つは国際的に胸を張れるような認証基準に変えていこうという動きをしている。
その背景として、海外への輸出を考えている日本の漁業団体が、今のMELの基準では欧米のバイヤーが認めてくれないので、彼らから「持続可能」と認められる基準のエコラベルにMELがなってくれないと困るとの要請があった。
それで、海外輸出に耐えられる新しい基準に変えていこうという動きになっている。
新しい規格になると、認証が難しくなると思う。
海外に認められるエコラベルにするにはGSSIというドイツの組織のお墨付きが必要。
現在のMEL認証の評価基準だとGSSIのベンチマーキングテストに合格できないので、合格できるような評価基準になるように専門家とチェックリストを作っている。
一方で、GSSIは欧米の資源管理思想に偏っていて、日本の考え方に馴染まない部分が多い。
新しいMELジャパンの会長は前ニッスイ社長の垣添さん。
彼がこの前の東京シーフードショーのセミナーや自民党の水産委員会でも答弁されていたこととして、
「まずはGSSI側に引っ張られた(欧米思想の)規格にせざるをえないが、日本の漁業には多様な生物を相手に多様な漁業形態があり、それをさばくための多様な流通経路がある。そういうことを考慮して、FAOの解釈方法について(まずはGSSIを通した上で)、逆にGSSI側に主張していく」
とおっしゃっておられる。
GSSIのベンチマーキングテストに合格できる新しいMELジャパン認証だと、日本の多くの零細漁業は認証を取れないと思うが、垣添さんがおっしゃるようにGSSI側に主張していくので(漁業者のみなさんは)心配しないで少し様子を見てもらえたら。
オリンピックで使われるMEL認証は新旧どっち??
東京オリンピック、パラリンピックは2020年。
一方新しい認証の基準が近いうちにできたとして、(ISOの縛りで)その基準が公開された後、3年以内に新しい規格に移行することになる。
なので変な話だが、オリンピックだけなんとかしたいという場合は現在の規格でとってもらって、オリンピック後、メリットを感じれば新規格に乗り換えることを考えるのもありかと思っている。
Q(銭本).オリンピック、パラリンピックでの調達基準がMEL認証というのは決定していることなのか。
A.
組織委員会の調達基準というのが配布されており、その中に(MEL認証が調達基準というのが)書かれている。
ただ、もう少し正確に言うと、MELじゃなきゃダメというわけではなくて、「日本の大臣許可漁業、知事許可漁業を受けてちゃんとやっている漁業というのは基本的に持続的生産が保障されているはずだから選手村で出すことができると考えていいだろう」というのが1番。
その上でMELやMSCを取っていると、エコラベルの認証取得済みと言えるのでなお良い。という言い方。
Q(銭本)(先ほどの話だとMEL認証をとっても魚価が上がるわけではないとおっしゃっていたが、)MEL認証を取得した漁業者の満足度はどうか。
A.
満足度は、認証を維持している人はブーブー言いながらも、毎年数十万の費用をかけて認証を維持する価値があると思ってやっていると思う。
一方で価値を見出せない方はパラパラ辞めている。
認証を維持している人でも、「今季は漁が悪くて苦しかったので、認証を一旦休眠して、資源が回復したらまたお金を払うから」という相談をされた漁業者さんは実際におられる。
これは、現状のMEL規格では許容できるが、新規格では認証を一度取り下げざるをえない。
Q(銭本)新規格にして評価基準が厳しくなった時に、審査のコストが上がり、今のような値段で審査が行えないのではないか?
A.
審査の項数、何日で審査するか、その辺りの手数は変わらないと思う。
なにが変わるかというと漁業認証で資源の持続性に関する考え方が現状のもの(MEL)と欧米の方々(GSSI?)が考えているものとでかなり違う。
例えばキンメダイの資源水準は低空飛行しているが、漁業者はそれ以上悪くならないように一生懸命努力している。
そのような(悪い資源)状況が過去50年の間に何度もあったが、その度に乗り越えてきたという実績がある。
今は低位安定だけれども今の認証は与えられる。
ただ、GSSIに耐えられる新しい認証では低位の状態が5年続いたらどのような努力をしていても認証を与えるわけにはいかないという考え方。
大きく変わると思われるのは、(日本水産資源保護協会のような)審査機関が本当に公平にガイドライン通りに審査をしているかチェックする組織(認定機関)というものがある。
今の認定機関は「日本技術者協会(遠藤さんうろ覚えでよくわからなかった)」がやっているが、GSSIのベンチマーキングを通すにあたってはそこの認定審査では不十分。
GSSIを通すにはJABという機関の認定を受ける必要があるが、そうなると現在「5年で100万円」程度の費用だったのが、値切りに値切って「1年間で700万円」に急増する。
それを漁業者さんに負担してもらうと相当なコストがかかる。
誰がそのコストを払うのかも含めて今議論している。
なので、うまくやればそれほどコストアップせず新規格になるかもしれないし、場合によっては認定の部分のコスト増分だけ、負担が大きくなるかもしれない。
Q.資源評価ができていない魚種は対象にならないのか?
A.
現状の規格では、通せる場合もある。
例えば、漁協の仕切り伝票から数十年分のCPUEを算出して資源の指標として使ったことがある。
ただ、新基準になった時にはこのようなやり方ではダメなんじゃないかと思う。
ということで、まとめてみました。
引き続き感想を書くとえらい長くなるので、今日はここまでとします。
0 件のコメント:
コメントを投稿