2010年9月2日木曜日

ウナギを食べない集落 粥川

じい様のお知り合いがウナギに関して質問があるということで,
じい様経由で以下のような質問がきた.

<質問内容>
岐阜県の粥川添いのウナギは、そこで繁殖を繰り返していると地元の
共通認識で、ウナギを神様のように扱い、食べないのです。
ウナギはフィリピン海溝辺りまで行って、そこで繁殖することが
証明されていますね。例外はないということを知りたいのです。
星宮神社が粥川上流地区にあって、そこの池に大きなウナギが
たくさんいます。そのウナギも、いつか繁殖の旅に出るのだと
私は勝手に想像しているのですが、地元ではタブーです。

とのこと.

ウナギの研究をしていながら,
ウナギを神聖な生き物として食べない地域が日本にあることをこれまで知りませんでした.
検索して調べてみた結果,確かにこの地域では食べないようですね.
勉強になりました.
ちなみに日本のウナギとは別種ですが,
このような風習はポリネシアやミクロネシアにもあるようですよ.

さて,質問について近年の研究成果を基にこたえてみたいと思います.

確かに近年のウナギ産卵場調査の結果,
マリアナ海溝の近くの海域でウナギが産卵していることが明らかになりました.
僕自身も白鳳丸という学術研究船に乗って調査し,ウナギの卵や仔魚を採集しています.

しかし,このことは他の場所に産卵場がないことの証明にはなりません.
ではなぜマリアナ海溝付近の海域が唯一の産卵場ということができるのか?

実は遺伝学的手法による研究結果から明らかになっています.
種子島,神奈川,茨城の河川に来遊してきたウナギ稚魚を捕まえて,
そのDNAの特徴を調べたところ,遺伝的差異が非常に小さいということが分かりました.
もし,それぞれの地域のウナギが別々の生活史をもっていたら,
それぞれの地域特有の特徴がDNAに現れるはずです.
しかしそれぞれの地域で遺伝的差異がない.
このことは調査した3地点のウナギが互いに交配していることを示しています.
つまり,同一の産卵場が存在するということです.
この研究ではたった3地点のウナギを調べただけですが,
その後の研究からもこの結果を覆すものは出てきていません.
日本全国すべての河川を調べたわけではありませんが,
上記の結果から日本に生息するウナギは同一の産卵場を持つと結論づけられると考えているのです.

さらに,河川に生息するウナギの耳石という器官を調べるとウナギは海洋で生まれ,
仔魚として半年ほど海洋にいることが分かります.
耳石というのは人間でいう耳あかのようなもので,
耳掃除できないウナギの耳石は生まれてから日が経つにつれ大きくなっていきます.
中心から縁辺に向かってその耳石の成分(ストロンチウムカルシウム比)を分析すると,
生まれてから採集されるまでウナギがどのような環境にいたかが分かるのです.
その結果,生まれてから半年ぐらいはどのウナギも例外なく海洋に生息していることが分かっています.
その後河川に遡上するものとそのまま海にとどまるもの(海ウナギ)がいます(海ウナギについてはこの記事).
粥川のウナギの耳石を調べれば海洋か淡水域のどちらで生まれたものかははっきり分かります.

もう一つ.
もし粥川のウナギがその地域で繁殖を行っているなら,
成魚だけでなく,その地域で仔魚(レプトケファルス幼生)が見つかるはずです.
ウナギの仔魚は成魚とは異なり,写真のような柳の葉のような形をしています.

これまで粥川を含め,どの地域でもウナギの仔魚が採れたという報告はなく,
(アナゴなど沿岸域で産卵する魚類のレプトケファルス幼生は採れる)
このこともウナギの産卵場が日本近海にはないことの論拠となっています.

とまあ,つらつら書いてみましたが,
まだまだよく分かっていないこともあり(というよりほとんど分かっていない!),
それがウナギの謎めいた魅力でもあります.

6 件のコメント:

  1. 東馬さんからの伝言です。
    日付 2010年9月2日 17時34分
    件名 お礼
    お孫さんにお礼を言っておいてください。コメントを送ろうとしたのですが、どうもアクセスできません。

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  2. MZ氏さん,コメントありがとう!

    アクセスできないってのは少しきになりますね〜...

    東馬さんの伝言はうけとりました.

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  3. いい記事でした。知らぬことばかり・・・。
    立証データは、DNA と 耳石。
    なるほどと、納得。
    以下の感想は、Z家掲示板へ

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  4. 読み応えあったわー。ウナギを神格化している食べない地域があるというのも興味深いですね。一見非合理的な生き方をしているウナギ、わざわざそんなしんどい生き方せんでもええのに。。。と思うけど、何世代も先の子孫を考えての合理性なんやろね。もちろんウナギは考えてないやろけどDNAには刻まれてんねんね。

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  5. 銭本さんに質問があります。
    ジャポニカ種の産卵は5月から11月と聞いていますが
    これは間違いの無いことでしょうか。ジャポニカ種が1年中
    捕れるという所があると聞いたので今月の終わりからそこへ
    行ってきます。

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  6. mesotarouさん,コメントありがとうございます!
    ジャポニカ種の産卵の盛期は5-8月と言われています.
    耳石という器官に1日1本輪紋が形成されることを利用して,採集された仔魚の日時から輪紋数を差し引くことで仔魚の生まれた日が推定できます.
    これで5-8月の新月の日に産卵が行われていると推定されているわけです.
    ただ,8月以降も産卵している可能性はあります.
    一年中採れるというのはシラスウナギのことでしょうか?

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