2008年11月19日水曜日

ゼニライトブイ!!!

このブログでも今年親ウナギが採集されたことを取り上げた.



このこと自体,センセーショナルな出来事だったのだが,
今,さらに面白いことが分かり始めている.


今年の6月に水産庁の開洋丸が親ウナギの捕獲に成功した.
この結果を俺は学術研究船"白鳳丸"の上で聞いた.

正直,
先を越された.負けてしまった.
という敗北感でいっぱいだった.
これまで,ウナギ産卵場調査をリードしてきた我らが白鳳丸が先を越された.
ベテラン投手が新米にいきなりホームランを浴びるようなものだ.
ここで言うベテラン投手ってのは行動生態の塚本先生や青山さんのこと.
俺はこの結果を受けて,どのように話しかければいいか分からなかった.

でも,塚本先生や青山さんは
仔魚が採れてるんだから親がいて当たり前だろ.
ってな感じでけろっとしていて,アフリカニョロリ旅を読んだ時に感じたタフさはだてじゃないなーと思った.
もちろん,親ウナギを自分たちがとりたかったに違いない.
だが,先生達にとって,それはゴールではなく通過点だったんだということに,その時の俺は気づいてなかった.

親ウナギが採れたことで,俺たちのその後のスケジュールは一変した.
まず,その親が産卵をしていたのかを確認するために仔魚をとること.
次に,その親によってその場所で産卵された仔魚が,日本までくることが出来るのかを検証すること.

以上2点がNext missionとして掲げられた.

すぐに船上で作戦会議が行われた.

最初の目的を達成するために,どのように仔魚調査を行うのかをみんなで話し合った.
この産卵場付近は北赤道海流が流れているため,生まれた卵や仔魚は西に行くだろう.
だから,親の採れた場所よりも少し西側に観測点を設けて,集中的にネットを曵こう.
まだ,生んで間もないからそれほど水平的な拡散を気にしなくてもいいだろう.
水平拡散というのは流れではなく,例えば,コップの中にインクをたらすと均一になるまで広がるような効果のことである.
外洋の一点で産卵が起これば時間経過とともに拡散し,海流に流されながら拡散していく.

といった意見をふまえて,親が採集された場所よりも少し西側の南北に1度の海域を集中的に調査することになった.
そして,集中観測の結果,今まで経験したことの無いような一曳網で115匹という濃密な仔魚のパッチを含め,多数の仔魚を採集することに成功した.
このことで,開洋丸が採集した親ウナギが産卵に寄与した可能性が非常に高くなった.

では,これらの仔魚は北赤道海流から黒潮に乗り換え,日本にくることができるのだろうか??
前回取り上げたように,
北赤道海流はフィリピンの東岸で北向きの黒潮と南向きのミンダナオ海流に分岐する.
その分岐位置はモデル研究で平均的に北緯14.5度付近にあることが分かっている.
親ウナギが採れた緯度が北緯13度付近であるため,分岐位置が14.5度ならば,このまま西に流されるとミンダナオ海流に取り込まれ,死滅回遊となってしまう.

仔魚が黒潮に乗るためには,
フィリピンの東岸に輸送されるまでに1.5度分北上するか,
この分岐位置が13度以南である
ことが必要である.

どのように検証するか....

この課題はまさに俺の研究の対象だ..
船内のいろいろな研究者から意見を求められた.
モデルでは分岐位置が14.5度あたりとしていたが,実際どうなんだと言われると,
観測してみないと分からない...
俺はそうとしか言えなかった.

このもやもやを打開すべく,親採集の1ヶ月後にブイを投入しようという計画が浮上した.
陸にいた指導教官にこのことを伝えると,3つブイを用意してくれた.

名前は....
ゼニライトブイ!!!

運命を感ぜざるを得なかった(爆)

その投入点を決めるよう,塚本先生に言われ,
一つは開洋丸が親をとった場所に,2つめはこれまで孵化直後の仔魚が採集されてきたSuruga海山に,3つめを北緯15度にそれぞれ投入してほしいと言った.

要求は受け入れられ,親採集から一ヶ月後の7月にそれぞれブイを投入した.
データは一日一回間隔で,衛星を介してGPS機能を搭載したブイから俺のPCに位置情報が送られてくる.

投入から4ヶ月が過ぎた今.
データが着々とたまっており,
非常に面白いことになっている.

開洋丸から投入したブイは残念ながらフィリピンの東岸で消息を断ってしまった(多分漁船に盗られてしまった).
しかし,Suruga海山(北緯14度付近)で流したブイが黒潮に乗った!
その軌跡を見てみると,フィリピンの東岸では北緯13度あたりから黒潮に乗っている.
つまり,今年は分岐緯度が13度よりも南にあったことが分かった.

先に,平均的に分岐緯度が14.5度といったが,エルニーニョやラニーニャなどのENSOイベントの影響で,その緯度は大きく変動する.
具体的にはエルニーニョの時にはその緯度が北上,ラニーニャの時には南下する.

今年はラニーニャ傾向があったので,14.5度よりも分岐緯度が南下しており,13度以南にあったのではと解釈することができる.

また,ブイの流れるスピードも俺の行った粒子追跡結果とほぼ一致していて,今までやってきたモデルを用いた研究の信憑性が高まった.

詳細な図は論文にしたらまた載せます!
乞うご期待!!

いやー,ゼニライトブイ
使えますよ!

3 件のコメント:

  1. MZ氏も、ヤラレタ!と、切歯扼腕した一人だが、今日の解説で逆転ホームランの可能性を信じる。やって”チョーダイ”

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  2. ゼニライトブイ、これはDJ-Kがこの研究をするであろうと予期されていたようなネーミング。何だかアカデミックな世界に似つかわしくないあの近未来的風貌に私はトリコになりました。なんともかわいい。。。ゼニライトブイとともに飛躍あれ!

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  3. おー,ありがとう!

    さらなる逆転ホームランを打つべく,日々精進いたします.

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