2008年10月1日水曜日

ウナギ産卵個体採集をうけて



先日飛び込んできたマリアナでの親ウナギ捕獲のニュース.
本来ならもっと早くプレスリリースがあっても良かったのだろうけど,
事故米の事件とかもあって遅れたのでしょう.

"親ウナギが採れたことってそんなにすごいことなの?"
ってのがみなさんの正直な感想でしょう.


でも実は,
これが安価で安定したウナギをみんなに供給するためにとても重要な出来事であることは間違いない.
ヤフーのニュースに何時間も乗り続けるだけのインパクトが確かにあるのです!

なぜ重要なの?ってとこを説明したいと思います.

まず,皆さんが普段口にしているウナギはほぼ養殖物です.
自然界だと5-6年かかる大きさにするのに養殖場では大量の餌を与えて半年で仕上げます.
この行程は養鶏や養豚と同じです.

しかし,養鶏,養豚とは違い,ウナギの場合は元となる子供(種苗)を人の手で作ることができません.
種苗は100%天然のシラスウナギに依存しています.

ウナギの生活史図を見てほしいのですが,
ウナギはマリアナ諸島のグアムの近くで産卵します.
2005年に東大の白鳳丸がこの海域で数ミリの孵化後間もないウナギの赤ちゃんを大量に採集したことで,このことが確定的となりました.
日本の河川にいる天然のウナギはみな成熟すると河川を下り,この海域をめざし,ここで産卵していると考えられています.

さて,このグアム近くの海域で生まれた仔魚は表層を流れる北赤道海流によって西に流されます.
そしてフィリピンの東の海域で黒潮に乗り換えて日本までやってきます.
産卵場から日本にやって来るまでに約4-6ヶ月かかります.
この頃にはいわゆるウナギのように長細く,体色は透明な形態をして,この段階の稚魚をシラスウナギといいます.
黒潮から離れて,日本沿岸の河川に遡上してきたこのシラスウナギを捕まえて養殖の種苗としているのです.
シラスウナギにしてみれば,産卵場から日本の河川まで約1000kmの旅をして,ようやくどっしり新居を構えようとした矢先に捕まえられる訳で少し気の毒.

とにかく,養殖にはこのシラスウナギを100%使っています.

このシラスウナギが日本にやってくる量は,30年前に比べて約70%も減少しています.
その原因については次回話しますが(これが昨日出した論文のネタ),
養殖業者にしてみれば,このことは死活問題です.

どうにか安定してシラスウナギを調達できないものか...
人の手で親から卵をとって孵化させ,シラスウナギにできれば,天然のシラスウナギの来遊量を気にする必要はありません.

水産庁は昔からこの卵を育てる研究を進めてきたのですが,いくつかの問題があって,行き詰まっていました.

まず一つ目は餌の問題.
天然の仔魚が何を食べて大きくなっているのかが分からない.
いろいろと試行錯誤して現在ではかなりの確率でシラスウナギにすることができるそうです(餌の配合などはまー,企業秘密でしょう.俺もしりません).

もう一つは卵質の問題.
完全養殖ができるサケなんかでも,天然に比べると受精卵の質が落ちるようです.
ウナギの場合は天然の卵を採集したことがなかったので,その比較すらできていなかったのです.
ただし,奇形率や孵化しない卵の率が高いことから卵質が悪いのは明らか.

このような問題,特に卵質の問題を改善するために親ウナギを採ることが必要だったのです.
天然卵を採集できたので人工卵との比較もできるし,
親ウナギの生理的な面が明らかになれば,人工的に成熟させる際に用いるホルモンの量や時期なども改善されるでしょう.

要するにウナギの完全養殖達成の前に立ちはだかる大きな壁を乗り越える大きなヒントを得たのです.

ながながと書きましたが,
天然のシラスウナギ来遊量が減少している問題についてはまた後日報告します〜.

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