対馬にはとても美味しい食材がたくさんあります。
とれたものを地元で消費する分にはそれはそれで良いのですが、島の外の人に食べてもらうためには(食べてもらいたい!)、
「お、食べてみたいな〜」 と消費者の感情を動かさなくてはいけません。
そこに美味しいものがあっても、消費者が自らそれを発掘、発見してくれることはありません。
つまり、その食材の価値をしっかり引き出し、それらを整理して、消費者に伝えることが生産者サイドは必要です。
「デザイン力」というのでしょうか。
ここ一年間の対馬生活で、対馬の美味しいものの発掘はそれなりにしてきましたが、
「デザイン力」はまだまだ足りていなくて、もっと勉強してスキルアップしなくてはいけないと思っています。
今日紹介する奥田政行さんの「地方再生のレシピ」はそんなデザイン力の重要性に気づかせてくれた本です。
地域創生、地域おこしに食材、料理、レストランの視点を持っている方や地元の食材を新しいアレンジで調理してみたい人などに特にオススメです。
去年の5月に宗像の環境国際会議があったのですが、そこでミヤザキ ケンスケさんというアーティストの方と知り合い、
Facebookでミヤザキさんの活動をフォローしていました。
Facebookの投稿でミヤザキさんが絵を手がけた、「地方再生のレシピ」という本が発売になったことを知りました。
購入しようと思ったのですが、Kindle版がなく、その時は紙媒体が品切れ。
amazonで予約購入を行い、在庫が復活するのを待っていました。
で、去年の11月に届いて、読んでいたのですが、内容が濃くてしっかり読むのに時間がかかってしまいました。
・自分の地域を好きになる
第1章 地方を元気にするお店づくりのレシピ
第2章 自然界を料理に表すためのレシピ
第3章 アルケッチャーノの味の作り方
第4章 地方の原石の磨きかたのレシピ
第5章 戦略的に「売れる商品」を開発するためのレシピ
第6章 未来を変えていくレシピ
特に興味を持って読んだ箇所を断片的にご紹介。
地方活性化のアプローチは様々ありますが、奥田さんは料理が有効だとおっしゃっています。
僕も、もともと食べることが好きだし、地方にある資源の多くが「食材」だと思っていたので、この主張に違和感はありませんでした。
さらに、このチャプターを読んで「なるほどなー」と感じました。
地域の魅力を伝えるアプローチとして料理が有効である理由として、
「その場で食べられて」「感動してもらえる」と、後から「誰かにしゃべりたくなる」からです。
とおっしゃっています。
「その場で食べられる」ってのはその地にきてもらうことが前提ですが、
「感動してもらえる」と、後から「誰かにしゃべりたくなる」ってのはどういうシチュエーションでも当てはまると思います。
昨年、学生実習でわが家に学生を受け入れた時、晩ご飯にBBQをしました。
その時、隣のおっちゃんがBBQしていることに気づいて、釣りたてのハガツオを刺身にして差し入れしてくれました。
そのサプライズ効果もあったんですが、まあおいしくて、学生くん感動してました。
そうしたら、やっぱり学生実習の数ヶ月後にあった報告会の時に「刺身のうまさにビビった」って発表してましたもんね。
(その学生くんはまた2月末にきます 笑)
おいしいものを食べて感動したら、誰かに話したくなるんですよね。
で、その時の熱量って相手にも伝わることが多いと思います。
「おいしいものを食べたい」って欲求は他の欲求よりも個人差が少なく、うまく共有できる気がするからです。
ここでは元山形県副知事の高橋節さんとの対談が取り上げられています。
行政の方がフレキシブルに対応できると、メディアの取り上げなどもあってものすごく勢いがつくようです。
行政サイドの高橋さんの3つの言葉はズシッときました。
とにかく地元へのアピールを意識しました。 さまざま取り組んでみてわかったのは、外に向けてここに良いものがありますと情報を発信したいときは、自分たちの地域に良いものがあるんだと、まずは地域に暮らす人たち自身が認識することが重要だということです。 いくら行政がイベントを仕掛けて、東京や大阪や仙台に仕掛けて行って、これは素晴らしいんだと言っても駄目なんです。 なぜだか伝わらない。〔中略〕ですから、親善大使の皆さんと初めに一生懸命取り組んだのは、地元に向けての啓蒙活動でした。
役所というのは規則でがんじがらめなんです。ですから今まで通りの考え方でいたら、絶対に新しいことは始まりません。否定的な要因ばかり出てきますから。 そうじゃなくて、地域をどうやったら元気づけられるのかという視点から考えたときに、「やりたいと言っていることに対する規制をいかに私たちが取り外すか」という発想に立って初めて、共に同じ方向に向かって歩めるのだと思います。
恐らくどこの地域もこの地域をどういうふうにして元気にしていったらいいのかという種を探していると思うんですよね。そこによそのアイデアを持ってきてコピーしようとしても絶対無理だと思うんです。 金を掛ければ最初はできるかもしれないけれど、息長く続けるためにはもともともそこにあるものをちゃんと探し出すことです。
対馬も行政は結構しっかりやっているように思っていて、「えっ??そんな企画行政でできるんですか??」って高いレベルなんですが、
一方で、地元愛の引き出し(行動に導く部分)は苦戦している印象です。
(「対馬学フォーラム」など、意識を増大できるイベントができてきているので、今後に期待)
具体的な話がある程度出た後で、
その一つ一つの要素を俯瞰して見られるように、ミヤザキさんのイラストでわかりやすくまとめてくれます。
植物・魚・肉の三つについて、良い食材の見分けかたや相性の良い組み合わせについて書いています。
僕は魚のことを少し知っている程度なので、植物・肉に関しては「ほうほう。」と勉強しっぱなしでした。
魚については比較的オーソドックスな見分けかたが紹介されていましたが、
新鮮なものとそうでないものの調理法の違いなどは勉強になりました。
また、「海の味がわかると料理のしかたが見えてくる」というのはすごく腑に落ちました。
この章を読んで思い出したのはカサゴの味が地域によって違うということです。
カサゴは僕が生まれ育った兵庫県明石でも対馬でも手に入る魚ですが、
明石でカサゴ(方言でガシラ)といえば真っ先に思いつく料理は「煮付け」です。
しかし、対馬ではカサゴ(方言でホシカリ)といえば「味噌汁」で食べるのが王道です。
長崎でも「味噌汁」で食べる人が圧倒的に多かったです。(長崎ではカサゴはアラカブと呼びます)
僕はこの地方による食べ方の違いに疑問を持って、
明石のカサゴで味噌汁を、対馬のカサゴで煮付けをして食べたのですが、どちらもいまいち。
やはり煮付けは明石の、味噌汁は対馬のカサゴの方がうまいと感じました。
これはとても興味深いことで、誰か体成分組成を研究してくれないかと思っています。
同じ魚でも生息海域や環境履歴によっても味が異なってくることについても触れられています。
こういうストーリーを料理に反映させられると、グッと深みが出るように思います。
奥田さんの文章を読むと「温故知新」と言う言葉がすぐに連想されます。
先人がその食材をどのように扱ってきたか、
その文脈に逆らうことなく、アレンジを施し、新しいものを提供されています。
なので、奥深いストーリーを感じられる一品になるのではないかと思いました。
アンダーラインをたくさん引いてしまいました。
きっと何度も参照し直すことになるような、スゴ本。
オススメです。
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