N君との再会

学部時代にバイトで家庭教師をしていた．

部活をしていた関係で，

部活後18:00以降からでもできて，それなりに稼げるという理由から家庭教師を始めた．

教師登録をする時に自己PR欄を書かないといけない．

英検もTOEICも受けたことがない．

特にアピールできるような成績をおさめたこともない．

なので，趣味である釣りと音楽，部活動のことを適当に書いた．

意外にもすぐに生徒が決まったという連絡がはいった．

その生徒ってのがN君．

N君と俺を引き合わせたのは"釣り"だった．

N君のプロフィールを見て仰天．

登校拒否．

学校に行こうとしても体がおかしくなり，ほとんど学校にいけない状態だという．

親御さんの希望は，

"対人関係をうまく築けないので，優しい先生がいい．

釣りが趣味なので釣り好きの先生がよい．

学校に行けていないので，その内容を指導してほしい"

とのこと．

これはしょっぱなから大変な生徒を持ってしまったと思った．

初回授業．

俺のイエスノーの質問に首を縦か横に振るのが精一杯のN君．

2回目

家まで行ったが，緊張からかN君の体調が悪くなり，指導を断念．

いろいろ考えて，とにかくN君に心を開いてもらうことがまず第一だと思った．

3回目からは，

いろいろと釣り具を持っていき，使い方のレクチャーや，

地図帳を使って，ここのポイントが釣れるとか何が釣れるとか，そんな話ばっかりした．

すると，

N君のほうから，

"昨日お父さんとここに行って，アジゴを釣った"

とか言ってきて，徐々に自発的に話すことができるようになった．

その後は勉強も出来るようになり，休憩時間は釣りの話で盛り上がるといった感じだった．

宿題は必ずするし，飲み込みも早かったが，

勉強の遅れは致命的で，どう見積もっても高校受験で公立を狙うことは不可能だった．

なので，定時制の高校に進学．

高校進学後も一緒に勉強した．

俺の大学院入学で指導は終了となった．

それから4年．

彼は今，長崎大学の水産学部に在籍している．

長大生協前のベンチで彼と4年ぶりに再会した．

当時160cm前後だった身長は，180cmオーバーになっていた．

顔は自信に満ちあふれていた．

俺の指導の後は独学で勉強し，長大に入学したらしい．

母校では30年ぶりの長大入学だったらしく，受験体験記を書かされたらしい．

今は同期の忘年会を企画して，会場を押さえたり，メンバーを集めたり忙しいらしい　笑

話はつきず，あっという間に時間がたって，気づくと5時．

次の予定が入っていたので，彼のバイクがとめてある駐輪場まで一緒に歩いた．

別れ際に，

"先生，受験前の一番つらい時期には就職も考えましたが，今大学に来て本当に良かったと思っています．"

と言われた時には，こんなにうれしいことはないと思った．

彼にとって，俺は先生なんやな．

釣り話を一緒にしただけやのに．

N君と別れた後，リアル先生になったRTrowとカッチリ公務員OY君と再会すべく，タクシーをひろった．

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