2008年12月17日水曜日

ウナギの耳石の話





今年の夏に産卵に寄与した親ウナギがマリアナ海溝のすぐ北側で採集されたことをブログで紹介した.

このニュースはいろいろなメディアでも取り上げられ,知っている人も多いと思う.

そして,このことを受けて明らかになっていくことがあるということもブログに示した.
今回はそんな明らかになりつつあることの一つについて紹介したい.

ウナギは海と川を行き来する通し回遊魚と言われる魚である.

海と川とでは水温や塩分などの環境が大きく異なるため,ウナギもその環境に適応すべく体内の環境も変えているのだ.

そういった環境の変化はウナギの耳石のSr/Ca比 (ストロンチウム/カルシウム比 : 業界ではストカル比という)に反映される.


この耳石というのは人間で言う耳垢のようなもので,当然ウナギ達は耳掃除を出来ないので,生まれてからどんどん耳石は大きくなる.

この耳石の断面は木の年輪のように中心から外に向かって輪紋が形成されている.

解析の詳細は省くが,耳石の中心から縁辺に向かってストカル比を調べると,そのウナギがどのような環境にいたかを時系列的に推測できる.

日本近海で採れたウナギ成魚の耳石ストカル比をみてやると,ストカル比が低い川ウナギ,中くらいの河口ウナギ,高い海ウナギがいることがわかっている.

すべてのウナギがシラスウナギに変態したあと,河川に遡上するのではなく,
河口域や海に留まる個体がいるという点でウナギ研究にとても大きなインパクトを与えた.

このことから次のような仮説が立てられる.

産卵に寄与する親ウナギは海ウナギなのではないか??

河川に遡上したウナギが産卵場に行くためには3000kmもの産卵回遊を行う必要がある.
それに比べて,海にいるウナギならもっと短い距離で良いのではないか?
ミツバチのように産卵場周辺に女王海ウナギたちがいて,そいつらが毎年産卵期になれば卵を産んでいるのではないか?
ということである.

この仮説に答えるためにはマリアナで採った親ウナギの耳石ストカル比を見れば良いのである.
つまり,河川で過ごした経験のあるストカル比の低い時期があるかどうかを見ればいいのだ.

そして,今回マリアナで採れた親ウナギの耳石を調べた結果,

採れた親ウナギは確かに河川で生活した履歴のある個体だったのだ!

3000kmを超える回遊を行って,奴らは産卵するのだ.

なぜ??

謎は深まるばかり.....

<<引用した図は塚本先生の日本水産学会誌受賞者総説>>

2 件のコメント:

  1. この研究はおもしろいね。親うなぎが河川で生活することと生殖活動の関連はあるのかなあ。

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  2. それは非常におもしろくて,行動生態の人がフィールドにいって調査してるわ.

    ただ,海ウナギが産卵に関与していないかどうかはまだわかってない.
    今回採れた親ウナギ4個体のうち2個体の結果を示したけど,もう2個体が海ウナギの可能性はまだあるね.

    また報告します!

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