2009年9月8日火曜日

ヨーロッパウナギ,アメリカウナギの産卵場の特徴

久々に研究的な記事.

修論では太平洋に生息しているウナギの研究を行った.

D論では大西洋に生息しているヨーロッパウナギ(Anguilla anguilla),アメリカウナギ(A. rostrata)にも手をだすつもり.

そこで,最近は大西洋2種の産卵場であるサルガッソ海の海洋環境の解析を行っている.
具体的には,
平均的な水温や塩分,流れがどうなっているのか,
それらが時間的にどのように変化しているのか,
その変化がウナギの産卵行動や孵化後の仔魚にどのような影響を及ぼすのか...etc.

今回はサルガッソ海の水温がどうなっているのか少し紹介します.

太平洋と違い観測に行っていないので,データはネットで入手.

早速50m層の3-6月の平均水温水平断面を書いてみた.


点線は大西洋2種10mm以下の仔魚が採集された海域を示している.

厳密にはヨーロッパウナギの仔魚なのだが,アメリカウナギの分布もオーバーラップしているので,
両種の産卵場はこの海域内にあると考えてよい.

水温の分布を見てみると北半球なので,当然南が暖かく,北に行くにつれ冷たくなっている.
しかし,北アメリカの東岸には暖かい南の水が北に向かって延びていっているのが分かる.

この海域には湾流という強い流れが存在し,湾流によって南の暖かい水が北に流されているのだ.

ちなみに湾流というのは大洋の西岸に出来る西岸境界流と呼ばれる強流の代表的なもの.
太平洋の西には日本の太平洋側を流れる黒潮がある.

大西洋ウナギの産卵場は湾流の源流域にあり,生まれた仔魚は湾流に乗り,速やかに北アメリカを北上する.
アメリカウナギはそのまま北アメリカの河川に来遊し,
ヨーロッパウナギはそのまま湾流に乗り続け,北大西洋海流に乗り換え,ヨーロッパまで回遊する.
いろいろな研究でヨーロッパウナギの場合,仔魚は3年近く海流に漂い大西洋を横断するらしい.

まあ,行きはよい.海流に身を任せておけば近くまで運んでくれる.
河川で育ち,産卵を迎えた親ウナギはどうやってこんな遠い産卵場まで行くのか.

この親の産卵回遊については未だに謎である.

しかし,産卵場が南北に水温の勾配の大きな場所(フロント)に形成されていることから,
水温そのものや水温差,フロントの南北の水塊の違いを頼りに産卵していると考えられている.

さて,サルガッソ海の水温はここ50年の水温データを解析したところ,かなり上昇していることが分かった.
水温が上昇しているということは,水平断面図のそれぞれの水温コンター線が近年北上傾向にあるということである.
ウナギの産卵条件が仮に水温であれば,この水温の上昇に伴い産卵場が北上している可能性がある.
これは仔魚の実地調査が行われていないので実際のところは分からない.
しかし,もし湾流に取り込まれにくい北の海域に産卵場が移行していっているとすると,
輸送時間の長期化に伴う被食の危険性の増大などの要因で成育場まで到達できるウナギは減少すると考えられる.

もう一つ,産卵場の水温が上昇するとウナギにとって不都合なことが起こると考えられる.
それは餌.
仔魚はPOMって粒子を食べているらしいが,そのPOMってのも元をたどれば植物プランクトンによる光合成の産物.

表層の水温が高くなると,植物プランクトンの増殖に不可欠な栄養塩がある深層の水が光の届く浅い層まで上がりにくくなる.
結果,水温が上昇すると相対的に植物プランクトンやPOM量が減少するのである.

仔魚にとって,被食率の上昇や餌料環境の悪化はクリティカルな問題だ.
既往研究でも,水温の変動と河川に来遊してくるシラスウナギの量に負の相関関係が見られている.

D論ではこれらの仮説をきちんと検証をして,ウナギ仔魚輸送に関連した水温変動の研究を進めていきたい.

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